「G型大学×L型大学」一部のトップ校以外は職業訓練校へ発言の波紋
10月7日、文部科学省の有識者会議での株式会社経営共創基盤CEOの冨山和彦氏の主張がネットで公開され、大きな議論を呼んでいる。それは「一部のトップ校を除いて、ほとんどの大学は職業訓練校になるべき」というものだ。・・・
「文学部はシェイクスピア、文学概論ではなく、観光業で必要になる英語、地元の歴史、文化の名所説明力を身につける」「経済・経営学部は、マイケルポーター、戦略論ではなく、簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方を教える」「法学部は憲法、刑法ではなく、道路交通法、大型第二種免許を取得させる」「工学部は機械力学、流体力学ではなく、TOYOTAで使われている最新鋭の工作機械の使い方を学ぶ」といった具合だ。
一部のグローバル人材を生み出すG型大学、その他をローカル大学(L型大学)として位置づけ、現在の大学制度そのものを見直せという。・・・
※PRESIDENT Online、2014年12月03日、引用
アカデミック系後退で、実学系が主流に
批判もあるが、これはひとつの方向性でしょう。「グローバル人材」は必要だが、全国の学生すべてがそうなる必要は無い。対する実体経済、特に地方経済で必要とされる「ローカル人材」は足りない。大学進学率が高まり、でも少子化も同時に進行し、大学とりわけ地方の小規模大学は、実学志向でローカル大学化しつつあるが、中途半端な感も否めない。
やはり、「大学」に二文字に対し、「専門学校や職業訓練校のマネなんか、できるか!」というプライドが邪魔をしている・・・というか、大学自身の立ち位置に苦慮しているのでしょう。
おそらくこの冨山和彦氏の提言は、一部の大学関係者には、サイレントながら密かに歓迎されていると思う。文科省の会議で「大学の職業訓練校化」が一定の評価を得られれば、こっそり職業訓練校化を目指している大学関係者は、これからは大手を振ってハッキリとその方向性を打ち出せる。
現実的には、職業訓練校や専門学校との差別化の点で、従来のアカデミックな部分は残すでしょう。だだ、従来はアカデミック系学問が主流で、実学系が傍流だったのが、ズバリ主流と傍流が逆転する。私もそれでいいと思う。
前門の「MOOC」、後門の「専門学校・職業訓練校」
今や、ネット塾よろしくMOOCなどのオンライン大学も出てきています。アカデミック系学問は取り組もうと思えば、いつでも勉強できる環境にあります。それに対し、リアルな大学はワークショップ形式や実習などで、アカデミック系ではなく実学系に重きをおくべきでしょう。
これならMOOCにない価値を出しやすい。例えば、観光地を実際歩いたり、工作機械をいじったり、生の議会を傍聴したり等々、いわゆるフィールドワーク的な調査・研究は、インターネット上でのMOOCでは限界があります。
また、同時に専門学校・職業訓練校にない “大学の良さ” も打ち出すべきです。ひとつは伝統的にアカデミックな学問の系譜を持っていることです。例えば、シェークスピアもT型フォードも憲法論もケインジアンも相対性理論もメンデルの法則も、専門学校ではほとんど触れないでしょう。アカデミックな学問領域は、実はあらゆる実学の “裏側” に隠れているわけで、大学なら “表”(=実学系)も “裏”(=アカデミック系)も学べます。
もう一つは自由なキャンパスライフです。マイクロソフト社のビル・ゲイツ元会長は「自由な大学キャンパスのような環境が、プログラミングのようなクリエイティブな仕事には必要だ」、といった主旨の発言をしていました。この自由闊達でフランクな雰囲気は大学にしかない。ここは重要です。なんせ、ゲイツ氏は自分の会社を、大学の自由な雰囲気に見立てて「キャンパス」と呼んでいたくらいです。
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一部のトップ大学を除き、多くの大学が定員割れの危機に直面している以上、大学はネットでは体験できないリアルな「実学」に重きをおきつつ、専門学校や職業訓練校にない自由なキャンパスライフをウリに、学生と企業を魅了すべきでしょう。
※参考資料:
・我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性、株式会社経営共創基盤、代表取締役CEO 冨山和彦氏、2014年10月07日
・大学がディズニーランド?、ネット塾ジャーナル、2014年11月03日
・グレゴール・ヨハン・メンデル、Wikipedia、最終更新2014年08月22日
・NikeとMicrosoftの本社オフィスの価値と意味について、哲学探究.com、2012年07月21日