ビッグデータの可能性と限界


※画像: ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える、講談社、2013年

教育業界で「ビッグデータ」が注目されている。紙からデジタルへとIT化が進む教育現場で、子どもたちの膨大な学習記録を情報端末を通じて集め、残せるようになってきたからだ。「ビッグデータ」を活用すれば、学力は上がるのか。・・・

解答を終えた生徒は、用紙をスキャナーに通した。データの保管先は岡山大学にあるコンピューター。1人につき1カ月に延べ2千字分の解答の電子データが積み上がる。解析するのは岡山大大学院教育学研究科の寺澤孝文教授。「どんな生徒でも成績が上がる」と言う。

このドリルは、独自のスケジュールが組まれており、生徒一人ひとりがどの漢字をどの程度身につけたかが正確に測定できる。このデータを解析すると、例えば「漢字1千字を習得するのにかかる時間」が予測でき、一人ひとりの学習進度に応じて問題を作ることもできる。・・・

教育ビッグデータで成績上がる? 市場「3千億円規模」、朝日新聞デジタル、2015年05月05日

スマートフォンやタブレット、PCで生徒たちが勉強していけば、データはどんどん蓄積され、それはビッグデータとなる。アクセス回数はもとより、詳細な画面毎の閲覧回数と時間、そして設問への回答時間、正解・不正解の情報などが積み重なっていく。

それらはその該当する生徒における学力の “強みと弱み” を明らかにし、その結果、その生徒に合った学習プログラムが生成される・・・。ビッグデータ解析を教育プログラムに適応させると、こういったメリットが享受できる。

予測のツール・ビッグデータ解析

ビッグデータ解析はとりわけ「近未来予測」にチカラを発揮すると言われている。膨大な過去のデータから、近未来を予測するわけだ。ある生徒が1時間勉強し、サーバー側にデータ送信すれば、彼・彼女の “強みと弱み” がわかると同時に、例えば2年たったらどれくらい学力が伸長するかもわかる。わかりやすく言えば、こういったことでしょう。

学力の伸長 “予測” をただ単純に示した場合、その生徒のモチベーションが低下する可能性もある。しかし分析の仕方を工夫すれば、学習スケジュールや学習量の「見積もり」が的確にデータとしてアウトプットされる。つまり例えば、何年間どの程度勉強して、どういった点に気をつければ、どういった結果が出るかが事前にわかる。

ビッグデータ解析が近未来の「見積もり」機能に長けているとすれば、学習者によっては非常にモチベーションアップに寄与するでしょう。少なくても筆者には寄与すると思う。やはり右も左も分からないジャングルにパラシュートで降り立ったとして、的確な地図が有るのと無いのでは、生存へのやる気がガゼン違ってくるからです。

理由付けには不向き

ただビッグデータ解析には不向きな点もある。その最大な項目が「理由付けには不向き」という点だ。ビッグデータ解析は基盤として統計上の分析なので、A→B→Cと事象が会った場合、A→Cを的確にアウトプットするが、真ん中のBをすっ飛ばしてしまう。そういう傾向がある。

いわゆる「理由付け」を提供するのが苦手だ。ビクター・マイヤー=ショーンベルガー氏とケネス・クキエ氏の共著『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』(講談社、2013年)でも指摘しているが、ビッグデータ解析では「相関関係」を導き出すのは得意だが、「因果関係」を割り出すのは苦手だ。

東京大学合格を目指す人工知能(人工頭脳)のプロジェクト「東ロボくん」(Todai Robot Project)を率いる新井紀子先生(国立情報学研究所教授)も、そもそもコンピューター系は「相関関係」は得意だが「因果関係」は苦手という主旨のことを言っています。

・・・東ロボくんに限らず、現在「人工知能」と呼ばれているものは言葉を解さない。・・・キーワードを頼りに検索をし、関係がありそうな文を選んできて、制限字数内にはめ込むだけだ。・・・
「東ロボくん」研究の教授コメント 「人間、頑張れ!」、朝日新聞デジタル、2015年11月14日

A→Cの例を説明をしましたが、言い換えればビッグデータ解析や人工知能は「風が吹けば桶屋が儲かる」という結論だけを導き出すのは得意だが、「風が吹けば、土ぼこりが立ち、目に入って盲人が増え、三味線がたくさん買われ、多くの猫皮が必要になり、ネコがたくさん殺され、ネズミが増え、ネズミが桶をかじるので、桶屋が儲かる」という流れを解説するのは得意ではない。

人が好むシンプルな「因果関係モデル」

人間が本質的に「理由付け」にこだわるのは、自分自身で “納得” したいのと、あと逆説的だが、将来の教訓にしたいからだ。つまり「将来の教訓≒近未来予測」である。コンピューターは「相関関係」で未来予測をし、人間は「因果関係」で未来予測をする。簡潔に言えばそういうことです。

なぜなら、コンピューターは膨大なビッグデータと解析プログラムを使い、「相関関係」を即座に導き出せるが、人間にはそれができない。一般的に記憶容量と検索能力に限界があるからだ。したがって人間はシンプル化された「因果関係モデル」を用いて(つまり理由にこだわって)未来予測をする(これからどうするか決める)。

また、これは筆者の考えだが、ビッグデータ解析は過去の膨大な情報を元に判断するので、状況が激変すると(すなわち前提条件が変わると)的確な答えを出せない。そういった変化の激しい環境では、一応、普遍的な教訓(?)でもある「因果関係モデル」がチカラを発揮する。

基礎教育はビッグデータ、創造性は人間

こう考えると、ビッグデータ解析は過去との繋がりが重視されるベーシックな教育プログラムには最適だと思う。しかし、道無き道を切り開くような創造的な分野には本質的に合わない。やはり因果関係にこだわる人間の頭脳のほうが創造性では一日の長(というかかなりのアドバンテージ)があると言える。

今後、初等教育や中等教育の分野では、ビッグデータ解析や人工知能は高い効果を発揮するでしょう。日本の基礎的な教育は今よりも充実する可能性は高い。それを身につけた人間が大学などの高等教育でどう創造性を発揮するかが、未来の教育・研究現場の課題かもしれません。

お酒の飲み過ぎの格言ではありませんが、ビッグデータは飲んでも飲まれるな(呑まれるな)!・・・ですね。

※参考資料:
東ロボくん、私立大8割「A判定」、ネット塾ジャーナル、2015年11月16日
ロボットは東大に入れるか。Todai Robot Project、国立情報学研究所
風が吹けば桶屋が儲かる、Wikipedia、最終更新2015年11月17日
リクルート、「受験サプリ」好調の裏にビッグデータ活用、知的ゲームでやる気くすぐる、ITpro、日経コンピュータ、日経BP社、2015年09月15日

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