東ロボくん、私立大8割「A判定」


※画像:人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)、2015年

東大合格目指すAI、模試で私大8割「A判定」

東京大合格を目指す人工知能(AI)「東ロボくん」が、大学入試センター試験の模擬試験で、平均点を大きく上回る成績を達成したと、国立情報学研究所などが14日、都内で開かれた成果発表会で明らかにした。私立大の約8割と国公立大33校で、「合格可能性が80%以上」のA判定になった。・・・

読売新聞(YOMIURI ONLINE)、2015年11月15日、引用

東ロボくん、受験勉強3年目

国立情報学研究所の人工知能「東ロボくん」が着実に偏差値を上げてきていますね。ネット塾ジャーナルでは「人間の頭脳はすばらしい」の記事で、東ロボくんの “頭のかたさ・融通の利かなさ” を嘆き、人間の頭脳の素晴らしさを再確認したのですが、それから早2年経ち、今やそうも言っていられなくなりました。なんせ偏差値57ですから・・・。

東ロボくんの “受験勉強” は3年目になり、今回はベネッセコーポレーションが実際に6月に出された模試を解いたそうです。その結果、5教科8科目で偏差値57.8という好成績を叩き出しました。2014年の偏差値が47.3、2013年は45.1ですので、毎年着実に伸びています。

コンピューターの東ロボくんですから、やはり数学は得意でして、数学1A、数学2B、世界史Bの偏差値はなんと60を超えました。バンザイ、東ロボくん。開発している新井紀子先生(国立情報学研究所教授)もさぞお喜びでしょう。・・・と思いきや、当の新井先生はナニヤラなげいておられます。

(世界史では)「大論述」と呼ばれる・・・第1問は、機械にとっては、問題中のキーワードを手がかりに教科書を要約し、人間と遜色ない文章にまとめられるかという問題である。「小論述」と呼ばれる第2問は、手がかりとなるキーワードが限られる中、出題意図に沿った一文を教科書からピンポイントで選ばなければいけない。・・・

東ロボくんは初挑戦にもかかわらず、受験生平均を上回る偏差値54を獲得してしまった。

いくら教科書数冊とウィキペディアを丸暗記しているからといって、こんなことがあってよいはずがない。・・・東ロボくんに限らず、現在「人工知能」と呼ばれているものは言葉を解さない。・・・キーワードを頼りに検索をし、関係がありそうな文を選んできて、制限字数内にはめ込むだけだ。・・・

私は、事前に東大の世界史過去問題集に目を通した。そこには目を見張るような良問が並んでいた。・・・東大の記述式試験は、一発勝負や丸暗記とはまさに対極にある、世界でも類をみない丁寧な入試なのである。世界史だけではない。数学や他の科目も同様である。・・・

東ロボくんの答案を採点した予備校の先生は、「世界史を理解しようともせず、ただ教科書を丸暗記して部分点を狙ってくる受験生の答案に似ている」と喝破した。・・・
「東ロボくん」研究の教授コメント 「人間、頑張れ!」、朝日新聞デジタル、2015年11月14日

東大の問題は受験生へのラブレター

新井先生の言葉で印象的なのは、東大の問題は「まさに受験生へのラブレターのような問題」(世界史、上記記事引用)だそうです。歴史を学ぶことで、この混迷した現代社会を解決に導く洞察力や論理性を身につけて欲しいという、東大サイドの受験生に対する親心や期待感みたいな熱い気持ちを彼女は感じたそうです。

そして現実的には、東ロボくんのように記憶力に頼り、部分点狙いのセコい(?)答案を書いて合格する受験生がかなり存在する、ということもわかりました。つまりこれは、東大など難関大学がどれほど丁寧な入学試験を用意しても、多くの受験生がその期待に応えられていないという証でもあります。

人間は人工知能に追い越される?

よく考えるとこれは実に恐ろしいことで、人間が物事の意味や本質を理解するのをやめ、単純に丸暗記や記号処理に走ってしまっている典型かもしれません。つまり、人間が人工知能と同じような思考形態を取るということは、いずれ人間は人工知能に追い越される、ということです。

我々人間は、物事の本質的な意味合いを理解し、人工知能にはできない洞察力などを自ら育む必要があるわけです。大学受験においても、東大などの難関大学はこのことに薄々気がつき始め、新入学する若者たちに人間固有の能力をブラッシュアップすることを期待している。

たとえば、物事を深く鋭く観察する能力である「洞察力」などは、ますます重要な能力になると思います。なかなか一朝一夕にはいかない難しい能力ですけどね。

※参考資料:
東ロボくん、Wikipedia、最終更新2015年03月04日
人間の頭脳はすばらしい、ネット塾ジャーナル、2013年11月12日
洞察力とは、活用形辞書 Weblio辞書