・・・教育経済学者の中室牧子・慶應義塾大学総合政策学部准教授だ。中室は6月に出版した『「学力」の経済学』で、科学的根拠に基づいて教育の費用対効果を検証。自称評論家のもっともらしい俗説より、大量のデータから観察される規則性を重視すべきだと説く。・・・
「ダックワース准教授がGRIT(グリット)と呼ぶのは、“やり抜く力”です。遠いゴールに向かって、興味を失わず、努力し続ける力です。ダックワース准教授らの研究によって、状況によらず、やり抜く力が強いことが成功の鍵となることが明らかになっています」・・・
「『頭がいいのね』と、もとから持つ能力を褒めると、子供は意欲を失い、成績が低下することがコロンビア大学のミューラー教授らの実験によって明らかにされています。」
「それよりも、『よく頑張ったね』と努力の中身を褒められた子供は、成果は努力によって決まっているのだと考えるため、より難しい課題に粘り強く挑戦しようとする傾向がみられたそうです」・・・※頂点を極めた人々に共通する「規則性」、Forbes JAPAN、2015年10月06日
教育の費用対効果
「大量のデータから観察される規則性を重視すべき」ですか・・・。ここでもビッグデータは活躍していますね。まぁ、”教育の費用対効果” 関連のリサーチはまさに統計学的アプローチと経済学なので、ビッグデータの活用はぴったりハマるわけです。
さて、「頭がいいのね」がNGで「よく頑張ったね」がOKと書かれていますが、それはこんな例からもわかります。たとえば親がお金持ちの人は「君はお金持ちだね」と言われても、(本心では)決して喜ばない。しかし、貧乏な人が頑張って稼いで、ちょっとした財産を築き、「よく頑張ったね」と褒められれば、そりゃあうれしいでしょう。
同じ財産でも人(親)からもらったのと、自分で稼いだのとでは、雲泥の違いだ。教育でも同じなのです。学習の「結果」を単に褒めるより、学習の「過程」を交えて褒める。結果よりプロセス。それが教育でも重要なのですね。
プロセスを褒める
プロセス(過程)を褒められ、プロセスに価値があると認識した子どもたちは、プロセスを改善しようと邁進する。確かにそういったメンタリティーを持つ人間は、常に成長するだろうから、結果として良い評価が後からついてくる。
ノーベル賞受賞者など、まさにこういった努力を努力と思わない、苦労を苦労と感じない “長期間において勤勉な” 方々でしょう。ノーベル賞はあくまで結果に過ぎず、大切なのは長い研究活動の過程で生まれた優れた成果物ですから・・・。塵も積もれば山となる、だと思います。
ちなみに、ここ数年、毎年のようにノーベル文学賞を期待されている村上春樹さんも、ご自分のお仕事を「雪かき」に(おそらくは)例えています。執筆活動は「文化的雪かき」に過ぎず、誰かがやらなければならない仕事ととらえているようです。これは6作目の長編小説『ダンス・ダンス・ダンス』の記載から、そう推測されています。
“やり抜く力” をどう育てるか
では教育現場で、将来役に立つであろう大切な “やり抜く力” をどう育てるか、が課題になるわけですが、単に授業で教えて、テストを繰り返す・・・だけではダメなんですよね~。
中室牧子先生いわく、「目の前の定期試験で数点を上げるために、部活や生徒会、社会貢献活動をやめさせたりすることは慎重であるべきかもしれません」(上記Forbes JAPAN記事より)。すなわち、いずれ将来的に子どもたちが自らを助けるであろう “やり抜く力” は、学業以外の課外活動によって育つ、と言い切ってしまっても良いかもしれません。
つまり、学習指導要領やペーパーテストと違い、しばしば課外活動には「唯一の正解」というものがありません。これが(混とんとした)社会生活全般と通じる部分で、子どもたちの “やり抜く力” を育むのだろうと、私は思います。
※参考資料:
・慶應義塾大学総合政策学部 中室牧子研究室 教育経済学 エビデンスベーストの教育政策
・くらし☆解説 「東アジアで人気 村上春樹の”小確幸”」、NHK 解説委員室、解説アーカイブス、2013年10月08日
・ダンス・ダンス・ダンス、Wikipedia、最終更新2015年10月02日