現在、東京大学合格を目指して日夜勉強(開発)に励んでいる人工知能「東ロボくん」。IBMのディープ・ブルーよろしく高性能コンピューターは既に、チェスや将棋で優秀なプロや名人を負かしたくらいですから、「東ロボくん」もカンタンに赤門に合格できると踏んでいました。ところが、そうは問屋がおろさない。
10年計画で東大合格を目指す人工知能「東(とう)ロボくん」が今月、初の実戦として大手予備校の模擬試験に挑戦した。開発から2年半。東ロボくんはどこまで賢くなっているのか・・・
(東ロボくんは)頭の中で過去の入試問題、各出版社の教科書、ウィキペディア、各種事典などが入っていて・・・ただ、人工知能は、それらの知識を人間のように活用できるわけではない。人工知能は文章を記号列として認識するだけで、本当の意味で理解しているわけではない。・・・
例えば『イエニチェリはオスマン帝国の常備軍だ』という説明が正しいかと聞かれる。記憶した教科書には『オスマン帝国のイエニチェリ軍団は皇帝直属の常備軍で』とあっても、内容が一致しているか判断(含意関係認識)しなければならない。・・・二つの文がパラフレーズ(言い換え)の関係にあるかを機械に判断させるのはとても難しい。・・・
※新井紀子・国立情報学研究助教授、読売新聞、2013年11月09日、引用
イラストが読み取れない
とにかく東ロボくんは頭が固い。よく小学校入試で問われるイラスト選び。「ツバメ、チョウ、ニワトリ、アヒル」などの絵を見せて、仲間はずれは?と聞いても、東ロボくんは全く答えられない。新井先生いわく「線や丸などが “雑然と散らばった” イラストなるものが何を表象しているか理解させる方法論がない」そうです。
また数学は得意だが、物理は苦手だそうです。物理の場合、一応、現実世界を前提にしている分野なのに、問題文では現実にはありえない条件が設定される。摩擦係数ゼロを暗黙の前提とした問題もあるが、「摩擦係数を入力して」と聞いてくる。頭が固いのです。
人間の脳のすばらしさ
とにかく人工知能は数学をベースに情報を認識しているだけなので、“イメージ” や “本質的な意味” を理解できない。あらためて人間の頭脳(脳)のすばらしさに感嘆するわけです。昨今の大学入試改革で、小論文や面接を重視する大学が増えてきたのも、従来の知識を問うだけの入試ではコンピューター的な人材ばかり入学するわけで、それを避けようという流れでしょう。
ただそうはいっても、人間もコンピューターの “考えていること” は把握していなければならない。つまり数学の基礎知識やノウハウは、やはり人間にとっても重要なのです。そのあたりのさじ加減が難しい。大学入試においても極端に言えば、コンピューターみたいな学生は不要だが、さりとて、コンピューターを理解できない学生も困る。
コンピューターが発達した現代社会での教育において、何を重要視すればいいのか、正直わからない。大変な時代になったものです。