※金水敏さん=2012年の朝日新聞より「文学部の学問が本領を発揮するのは、人生の岐路に立ったときではないか、と私は考えます」。今年3月、大阪大学の文学部長が卒業セレモニーで述べた式辞が、ツイッターで話題になっています。世間からの「文学部って何の役に立つの?」という声に対する考えを語ったものです。・・・
文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く、withnews(ウィズニュース)、2017年07月24日
人生には苦難が必ずやってきます
金水敏・大阪大学文学部長(兼・大学院文学研究科長)の言葉は次のように続きます。
「人生には様々な苦難が必ずやってきます・・・その時、文学部で学んだ事柄が、その問題に考える手がかりをきっと与えてくれます。しかも簡単な答えは与えてくれません。ただ、これらの問題を考えている間は、その問題を対象化し、客観的に捉えることができる。・・・」
今流行りの(?)メタ認知にもつながる考え方ですね。人文学は哲学・史学・文学・芸術学などであり、人間固有の内面や本性を扱う分野だと思う。最初っから “メタ認知≒客観的” っぽい社会科学や自然科学と違い、人文学は個々人の内部の思考・感性から湧き出る “偏った・主観的” な学問だが、学び続けるとメタ認知が養成されるという。
まさにパラドックス(逆説)を地で行くような話ですが、他の動物ではない「人間」が生きていくうえで、大切な考えでしょう。独断と偏見ですが、自然科学は時空を超えて宇宙全体から地球を見る視点だし、社会科学は空から地球上を歩いている(?)人々を見る感覚だが、人文学は個々の人間が一生懸命に「自分とは何か」と悩んでいる姿と重なる。
人文学は「観光資源」
ただ別の経済学的・技術論的な観点で見ると、人文学は「観光資源」として真価を発揮する、とも言える。人文学は科学というより音楽や美術・芸術に近いからだ。たとえば人文学が日本列島にあふれていれば、海外からの観光客は3000万人を楽に超えるだろう。観光産業にメディア産業等も含めれば、21世紀のハリウッドはジャパンにあり!となる。
例えば、映画『君の名は。』は古今和歌集の小野小町に着想を得ている。「夢と知りせば覚めざらましを(=夢と知っていれば目を覚ますことはなかったのに)」があのドラマの根幹だ。つまり「夢の中で愛しい人を見た」という千年以上昔の和歌から、新海誠監督は250億円のキャッシュフローを生み出している。
日本にハリウッドやブロードウェイ等を上回る(広義の)巨大観光メディア産業が成立するとしたら、その背景には間違いなく「人文学」がある。ありていに言えば、人文学とアキバ文化とは親和性が高いと思う。
人文学と人工知能
しかも(繰り返すようですが)人文学は人間固有の学問である。そして人文学は人工知能(artificial intelligence、AI)との相性は悪い。つまりコンピューターは人文学が苦手だ。AIが人文学を縦横無尽に扱うことは、困難極まりないことが最近の研究で分かってきている。
「人文学」は、苦難に満ちた人々の人生のおける道標になるだけでなく、それが寄り集まって “巨大産業” としても成立し、しかもコンピューターでは対応できない分野です。大学教育に関する風潮も含め、近年の「人文学への逆風」は早晩、追い風に変わると思います。
※参考資料:
・人文科学、Wikipedia、最終更新2017年02月14日
・本性、Wikipedia、最終更新2016年10月03日
・メタ認知、Wikipedia、最終更新2016年10月28日
・パラドックス、Wikipedia、最終更新2017年06月18日
・映画『君の名は。』公式サイト
・古今和歌集の部屋
・248.3億円!君の名は。はどれくらいすごい?歴代映画興行収入ランキング、NAVER まとめ、更新日2017年04月10日
・人工知能、Wikipedia、最終更新2017年07月28日
・「AI」が書いた小説はどれだけ面白いのか、中村陽子・東洋経済記者、東洋経済オンライン、2016年12月25日